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マダニ媒介感染症

最近、周囲でマダニに噛まれた系が頻発しているので、最近の状況を把握しようと少しお勉強。

 

マダニに噛まれたら刺入部を含めてしっかり除去することが周知されていて、実行はされているように思う。

さて、その後。

傷があることで、同部からの細菌性の感染が後日起こることは危惧されるので、何らかの抗生物質を予防的に使用するのは推奨されるだろう。もちろん清潔にすることも含めて。

では抗生物質の種類の選択は何が良いか?

何も考えなければセフェム系の普通の抗生剤を出してしまいそうではあるが、マダニの場合はそうしない方がよい。

マダニ咬傷後に困るのは、マダニ媒介の感染症がやっかいだから。

 

それは日本紅斑熱・ライム病・ツツガムシ病の3つだが…

ドキシサイクリン(商品名:ビブラマイシン)、テトラサイクリン(商品名:レダマイシン、アクロマイシンなど)が推奨されている。

しかし勤務先にはこの手の抗生剤は採用すらされていない。ミノマイシンがまぁ一番近いか。日本紅斑熱はニューキノロン系でもよいとされているので、そうなると選択肢は広い。

 

さらに厄介なのはSFTSか。重症熱性血小板減少症候群。ウィルス感染症なので抗生物質は効かない。日本ではワクチンはない。

主に中部以南での報告が多く、北陸三県では1例報告のみ。

 

上記3つの細菌感染症も含めて国立感染症研究所のHPに詳しい。

 

で、北陸の1症例の経緯について。本邦最北例らしい。

公益に反するわけではないと思うので一部省略しつつ抄録転載。

北陸地方で初めて確認されたSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の一例(本邦最北例)

Abstract:65歳男性。畑作業中にマダニに上腕を咬まれたことを2日間気付かず、その後、気づいて指でつまんで取り除いたが、同日から37℃台の発熱が出現し、翌日に近医の皮膚科へ受診した。ミノサイクリンとNSAIDsの処方が行われたが、高熱は続き、著者らの施設へ紹介となった。入院から第2病日目に一旦解熱したが、白血球および血小板の低下がみられ、ウイルス感染による重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が疑われた。そこで、ステロイドパルス療法と免疫グロブリン製剤の投与を開始し、同日、国立感染症研究所にSFTSウイルス抗原検査のため血液を提出した。一方、顔面には直径1cmの紅斑が散在しており日本紅斑熱の可能性も考え、レボフロキサシンも追加併用したが、第4病日目には更に血小板数が低下し、肝機能障害が悪化した。そして第5病日目には全身倦怠感、食欲低下が顕著となり、第7病日目にはPT-INR、FDPが上昇した。このことから播種性血管内凝固症候群と診断し、トロンボモジュリンを開始したが、第8病日目には発熱、意識障害が出現したため○○病院に転院となった。転院後、CHDF、血漿交換を実施したが、患者は最終的に多臓器不全となり翌日に死亡となった。尚、国立感染症研究所よりはSFTSウイルス遺伝子が検出されたとの連絡があった。

なかなかに激烈な経過である。亡くなられた方は大変お気の毒であったとしか言いようがない。

 

北陸ではマダニのSFTS保有率の調査はされていないようだが、滋賀県ではデータが出ている。

滋賀県のマダニにおける重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス保有調査(平成28年度)

Abstract:平成28年6月~7月に4山地5地区A~Eの山道を中心にマダニを440匹採集した。~略~ 成虫77検体、若虫のプール検体89検体の計166検体すべて重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス遺伝子は検出しなかった。

滋賀県では起こらないというわけではなく、確率が少ないと読むべきだろう。

これが鹿児島県になると

マダニのSFTSウイルス保有状況等に関する調査研究

Abstract:鹿児島県内のマダニの分布、季節消長、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)保有について調査した。期間は2014年から3年間、調査地は県本土、奄美大島、種子島、屋久島、徳之島である。2017年7月26日までのSFTS患者は27例(男性19例、女性8例、年齢中央値69歳)で、死亡は男女各4例で年齢中央値は83歳であった。SFTSVを媒介するフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニを採集したが、この2種の季節消長と患者の消長は類似していた。採取したマダニ3属8種168検体からSFTSV遺伝子を検出し、2015年、2016年の検出率は7%であった。県内では毎年約5名の患者が報告され、また患者発生のない地域からもSFTSV遺伝子保有マダニが採取されていることより、県本土・離島で通年のマダニ対策が必要であると考えられた。

そこそこに検出されており恐ろしい。

 

興味深い報告もあった。

中国の非多発地における重症熱性血小板減少症候群に対する抗体の存在(Presence of Antibodies against Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus in Non-Endemic Areas of China)(英語)

Abstract:中国安徽省の山間部(Yixian)において、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)の血清陽性率を調べ、SFTS発症のリスク因子を特定した。過去にSFTSの罹患歴がない健常者270名を対象とした。四つの年齢層(20歳未満66名、20~39歳55名、40~59歳93名、60歳以上56名)に分け、血液検体を採取し、SFTSVに対する免疫グロブリンG(IgG)を検出した。その結果、参加者のSFTSV-IgGの全血清陽性率は6.3%(17/270)であり、茶摘み従事者(9.4%、14/149)と非茶摘み従事者(2.5%、3/121)ではSFTSVの血清陽性率に有意差があることが分かった。全参加者(1.5~14.3%)および茶摘み従事者(2.8~19.4%)において、血清陽性率は年齢とともに増加する傾向が見られた。男性のSFTSV血清陽性率は、全参加者および茶摘み従事者よりも高かったが、その差は有意ではなかった。SFTSV感染の重大な危険因子は加齢と茶摘みであった。

抗体が検出されるということは少なくともウィルスが体内に入り免疫機能が惹起されたという意味(発症したとは限らない)なので、知らないうちに刺されて免疫ができているよってこと。

同様に鹿児島県の献血血液内のSFTSウィルスに対する抗体を調べている報告もあったが、抄録が提供されておらず内容は不明。

 

SFTSは稀な病態とはいえ、噛まれてしまって発症したら大変。

とにかく刺されないこと、刺されても早急に刺入部を含めて除去することが肝要か。

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